惟継中納言は、風月の才に富める人なり。一生精進にて読経うちして、寺法師の円伊僧正と同宿して侍りけるに、文保に三井寺焼かれし時、坊主にあひて、「御坊をば寺法師とこそ申しつれど、寺はなければ、今よりは法師とこそ申さめ」と言はれけり。いみじき秀句なりけり。
惟継中納言(※注1)さんはハラショーな詩人だった。そうして、仏道修行にはまっていて、お経漬けの毎日を送りながら、三井寺の寺法師、円伊僧正(※注2)と同棲していた。文保というのは一三一九年の頃、三井寺が延暦寺の坊主に放火された時、この寺法師にむかって「三井寺の坊主であるあなたのことを寺法師さんと呼んでいたけど、寺がなくなったので、今からは法師と呼びましょう」と言ったのだとか。限りなく気の利いた言葉である。
(※注1 平惟継。中納言で歌人であった)(※注2 天台宗の権僧正。歌人であった)
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