或者、小野道風の書ける和漢朗詠集とて持ちたりけるを、ある人「御相伝、浮ける事には侍らじなれども四条大納言撰ばれたものを、道風書かん事、時代や違ひ侍らん。覚束なくこそ」と言ひければ、「さ候へばこそ、世にあり難き物には侍りけれ」とて、いよいよ秘蔵しけり。
ある者が、字がうまい三人として有名な小野道風(※注1)の書き写した『和漢朗詠集』(※注2)だよ、と言って持っていた。別の者が「あなたのお宅での言い伝えですから、その根拠は出鱈目でもないでしょうが、何で藤原公任が選んだ歌集を、その時死んでいる小野道風が写せるのでしょうか。時代が矛盾しているのでは。そのへんが信用ならなくて」と言うと「そうなのですよ。だからこそ、たぐい希な珍品なんです」と言って、もっともっと大切にしまっておいた。
(※注1 平安時代の書家。九六六年に七十一歳で死んだ。この年に藤原公任が生まれた)(※注2 藤原公任がコーラスのために作った詩集)
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